キャッシュレス決済市場は年々拡大している
経済産業省の資料によれば、クレジットカードやQRコード決済を含むコード決済、電子マネーといった、現金以外の支払い手段=キャッシュレス決済が年々増加しているデータが公表されています。
出典:中間整理を踏まえ、令和3年度検討会で議論いただきたい点 経済産業省
また、矢野経済研究所では、2025年度にはキャッシュレス決済の市場は150兆円を超えるとする予測を発表しています。
出典:国内キャッシュレス決済市場に関する調査 矢野経済研究所
これほどまでにキャッシュレス決済が増加している理由として、政府が打ち出したキャッシュレス化の方針と、新型コロナウイルス感染症の感染対策(現金に触れる機会がないため)があります。
キャッシュレス決済の金額は、クレジットカード決済が2019年度は約73.4兆円、2020年度が約74.4兆円とほぼ横ばい。QRコード決済は1.1兆円(2019年)から4.2兆円(2020年)と、取引金額は4倍近く増加しています。
キャッシュレス決済の手段別割合ですが、クレジットカードがもっとも多くなっています。しかし、若干の減少傾向にあります。その減少分を埋める形としてQRコード決済の割合が増加しています。QRコード決済がキャッシュレス決済に占める割合は1.2%(2019年)程度ですが、前年からの増加率は500%超となっています。
出典:キャッシュレス・ロードマップ 2021 ⼀般社団法⼈キャッシュレス推進協議会
QRコード決済の市場規模は4兆→10兆円に成長見込み
500%という驚異的な増加率を見せたQRコード決済ですが、その背景には2019年に政府主導で行われた「キャッシュレス・ポイント還元事業」があります。QRコード決済はクレジットカード決済よりも導入のハードルが低いため、中小規模の店舗での加盟が急増しました。
「キャッシュレス・ポイント還元事業」によって、QRコード決済を利用できる場所と利用する人の両方が増加しました。その結果、キャッシュレス推進協議会では、2020年のQRコード決済市場は4兆2000億円にのぼったと発表しています。
一方、2021年秋にPayPayなどのQRコード決済サービス大手が、それまで無料だった決済手数料の有料化を始めました。この施策によってQRコード決済市場の成長は鈍化、あるいはストップしてしまうのではないかという懸念もあります。
しかし、QRコード決済市場は今後も成長していくという予想が大勢を占めています。なかでも矢野経済研究所では、2024年に取扱高ベースで10兆円規模まで拡大、そして日本能率協会総合研究所でもQRコード決済市場は2023年にはおよそ8兆円に拡大、とそれぞれ予測しています。
キャッシュレス決済において、QRコード決済がここまで存在感を示せるようになった理由は、ポイント還元で現金よりおトクにお買い物ができることや、QRコード決済導入のハードルが低い点が挙げられます。
そのほかにも、QRコード決済にはポイントと連動させるといったアプリを利用してオリジナルの決済サービスを作りやすい、システム構築に既存の決済ネットワークが不要といった、新規参入に対するハードルが下がった点も、QRコード決済普及の一因に挙げられます。
政府はキャッシュレス化を推進する方針
政府がキャッシュレス化を推進する理由は、世界と比べてまだその水準が低い点(およそ20%程度)にあります。
出典:キャッシュレスの現状及び意義 経済産業省
中韓のキャッシュレス決済比率を見ると、日本には成長の余地が大きく残されています。
政府はキャッシュレス決済比率を2025年には4割ほど、そして将来的には80%を目指すとしています。では、なぜキャッシュレス決済化を推進しているのでしょうか?その理由は大きく分けて3つあります。
第一に、少子高齢化による人手不足解消を図るためです。キャッシュレス決済の促進はお金に関する業務の効率化を図れるため、さらなる労働生産性の向上が期待できます。さらにキャッシュレス決済比率向上による取引のデータが新たな価値を生むと予測されています。それに伴って新たな産業の創出、イノベーションも見込まれています。
第二に、現金決済のコスト削減です。今まで意識されて来ませんでしたが、現金決済のインフラの維持には、多額のコストがかかっています。
造幣局の貨幣製造コスト、銀行の店舗設備投資、ATMの設置費、さらには詐欺や強盗による現金被害など、現金インフラを維持する費用は年間で1.6兆円と推計されています。キャッシュレス決済を普及させるほど、このコストを減らせる目論見です。
第三に、インバウンド消費の拡大です。この中でもとくにキャッシュレス決済比率が高い中国からの観光客を意識しています。
中国はキャッシュレス化が進んでいるため、中国人観光客はあまり現金を持ち歩かない傾向にあるようです。経済産業省の資料でも「クレジットカードなどが利用できる場所が多かったら、もっとお金を使っていた」と回答した中国人観光客の割合が4割にも上っています。キャッシュレス化の遅れが機会損失につながっていたことがわかります。
こうした国の方針だけではなく、キャッシュレス決済はお店やユーザーにもメリットをもたらします。お店であれば、現金の取扱量が減れば業務の効率化やトラブルの削減という効果があります。
ちなみに、現金を扱う業務、とくにレジ作業においてはレジ金額残高の確認に1店舗あたり平均延べ153分の時間が割かれている、と野村総合研究所が発表しています。また、現金取扱量の減少は、従業員やお客さまが感染症を媒介する機会の削減にもつながります。
ユーザーにとってのメリットは、キャッシュレス決済はポイント還元などでおトクにお買い物できるほか、家計管理の徹底による節約を見込めるといったものがあります。
ほかにも現金決済の場合、銀行やATMまで行く必要があるなど、手間や手数料がかかるため、キャッシュレスのほうが便利になっていきます。
現金決済のコストが顕在化
2022年1月17日から、ゆうちょ銀行では現金取り扱いの有料化に踏み切りました。有料化されたのは、ATMの入出金の一部、硬貨の入出金の一部、各種払込に関してです。
ゆうちょ銀行だけではなく、これまで無料で現金関連業務を引き受けていたメガバンクでも、手数料の値上げや紙製の通帳を有料化するなどの動きが見られます。
先にも紹介したように、現金決済のインフラにかかる費用の削減は、このような動きとも結びついています。
まとめ
日本のキャッシュレス決済市場の予測はかなり明るいと言えます。政府主導によるキャッシュレス決済の促進政策によって、今後さらなる普及率や取り扱い金額の増加が予測されています。
今後、キャッシュレス決済が普及するほど、現金決済関連は利用者側の負担が求められていく可能性があります。したがって、今のうちにキャッシュレス化を推進しておくことが、将来のコスト負担を減らすことにつながります。